2012年に読んで良かった本
Favorite books I read in 2012
2012年12月31日
なかなかゆっくり本を読む時間もとれませんが,今年読んで良かった本を記しておきましょう。移動や出先の空き時間に読むので重い本はほとんどなし。なお電子書籍は一番,本の読める時間帯である飛行機の離着陸時に使えないので問題外です。
資本主義の「終わりの始まり」 ギリシャ、イタリアで起きていること
藤原章生著 新潮選書
実はまだ途中なので,年越しです。でもギリシャ,イタリアの現場の雰囲気が伝わってくるような気がするいい本です。これからの社会を考えるヒントにもなりそうです。
ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪
今野晴貴著 文春新書
なんだかこわそうなタイトルですが,日本の企業のあり方に関する鋭い論考になっています。個人的にブラック企業に関わらなければすむ,というわけにはいかない状態に巻き込まれているわけですね。昨今の職員給与規則の改定のやり方などを見ると,ブラック大学やブラック役所の誕生も時間の問題かも。
静かなる大恐慌
柴山桂太著 集英社新書
私の職場である環境設計学科では,現在のようなグローバル化がそのまま進むだけのはずはない,ローカルも大事,というのがよく語られることですが,20世紀初頭のグローバル化が大戦を経て終焉したということがすでに知られていたのですね。すでにいろいろな予兆が見えているのだから,少なくとも両面作戦で行ってもらわないと困るのですが,政府,大学執行部,企業経営者はどこまでわかってやっているのか?が気になります。もちろん国民がいろいろな情報に敏感になることが一番大事だと思いますが。
ヒーローを待っていても世界は変わらない
湯浅誠著
年越しテント村などで有名になった方ですが,民主党政権時代に内閣参与などで政策実行側にもなったことがこの本の基になっているように思います。特に民間の発想と行政の発想は異なるけれど,どちらも大事というあたりが最近の日本に欠けている考え方だと思います。いろいろなアイディアを持った方が登用されたのは民主党政権の良い点だったと思いますので,自民党政権になってもこの点については柔軟に経験を活かした運営が続くと良いのですが。
そうだったのか!現代史
池上彰著
おなじみ池上彰氏の解説本ですが,学校で習ったころにはまだ歴史になっていなかった?ものも含まれていて,とてもおもしろく読みました。単に知識が足りないということもあるかもしれませんが。歴史も研究が進むといろいろなことが明らかになってくるのですね。いろいろな情報も時が経つと開示されたりしますし・・・。ベトナム戦争など知らないことだらけでした。
日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土
孫崎 享著 ちくま新書
外務官僚であった方の本です。あたりまえですが,いろいろ考えて外交が展開されてきたことがわかります。最近はどうなっているのかわかりませんが・・・。疑問なのは,こういう大事な情報をどうして国民に広く周知しないのだろう,ということです。今,求められているのは役所の単なるスリム化などではなくて,情報,コミュニケーションが円滑になるための部署に人員もお金も割くことだと思います。それが仕事でなかった人に,情報公開や広報をただでやれ,というのはあまりにもおかしいのでは。
商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道
新 雅史著 光文社新書
シャッター通りなどと言われるものも増えた商店街。活性化のかけ声はあちこちで聞かれますが,その成り立ちや状況はあまりにも知られていないのがよくわかります。地域の問題に限定すれば著者の論考はよく理解できますが,日本全体,さらには世界まで視野を広げるとさらにややこしい問題が残っているような気がします。そちらは他の本と合わせて読めばよいですね。
原発危機官邸からの証言
福山 哲郎著 ちくま新書
福島第一原発の事故については政府の対応について問題点が数多く指摘されていますが,菅内閣だったからだめだった,というような結論は問題点の分析からは導けるはずのないこと(比較対照する内閣はないから)だと常々考えていました。この本のような首相のすぐそばにいた人の記録が出版されたのはとても意義深いことです。教訓を活かすのなら,首相や大臣になる人には当時と同じ情報のみを与えて,どう判断するかを問い,一通りシミュレーションしてもらうくらいのことはやってほしいですね。おそらく誰がやってもそんなに大きな違いはないのではないかというのが推測ですが。たとえば原発からの距離でなく最初からシミュレーションデータを元に避難すべきだったという人は爆発するかどうかわからなかったということを忘れているとしか思えません。
「本当のこと」を伝えない日本の新聞
マーティン・ファクラー著 双葉新書
日本駐在のアメリカの新聞記者さんの本。言いたいことはよくわかりますし,納得する部分もあるのですが,だからといって「本当のこと」がそう簡単にわかるわけないでしょ,とつっこみたくもなります。けっきょくいろいろな見方の情報を集めるしかないわけですが,インターネットが普及して少しは集めやすくなりました(全部が載っているわけではないという問題は常に残りますが)。
限界集落の真実 過疎の村は消えるか?
山下祐介著 ちくま新書
共同で調査に行くことになった黒木町はいわゆる限界集落だと思われます。言葉は知っていてもどんな研究があるかは知らない・・・ということでとりあえず読むことにしたのがこれ。著者はあまり踏み込んでいませんが,集落の問題ではなく社会のしくみとの関係の問題であることがよくわかります。どのような場所の集落を維持するのか,というのは将来の社会ビジョンと生活像をどう描くかということになりますね。
裸のフクシマ 原発30km圏内で暮らす
たくきよしみつ著
福島は都会ではなくある程度自然と共生しながら暮らすことを目指した人たちの選ぶ場所のひとつだったのですね。著者のように情報収集して自分で判断したい人には現在のしくみは問題だらけなのでしょうが,福山さんの本と合わせて読むと,現場にいてもわかることとわからないことがあるわけで,そんなに単純な話ではなさそうに思えます。私の現時点での結論は,こんなにややこしいリスクを負ってまで原発を残す必要はなかろうに,というものです。
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