照明学会・研究調査委員会at大橋キャンパス
Research Committee of Illuminating Engineering Institute of Japan at Ohashi Campus
2005年12月15日
大橋キャンパスで,照明学会の「光放射の生物・生体に対する具体的影響に関する研究調査委員会」の第8回が開催されました。委員長は河本康太郎氏。この委員会では,毎回関連の研究者等が招待講演(話題提供)をするのですが,今回は,安河内先生が招かれ,ついでに大井も何かやれ,ということになったようです。
前回委員会の議事録確認の後,さっそく安河内先生のご講演。タイトルは「照明色温度の生体への生理的影響」。
GR DIGITAL GR LENS 5.9mm(28mm equiv.)
ISO 400 WB Auto ProgramAE
安河内研究室で続けられている,研究蓄積が短時間で一通り紹介される豪華なもの。現代の便利で快適な環境は本当に快適なのか?眼に見えない(意識されない)不快があるのでは,というのが出発点。芸術工学研究院や我々のCOEでよく前提として使う,人類史500万年のうち,99.8%は狩猟採集生活であり,農業の発明を1万年前としても,最近の0.2%で生活環境は激変したのであり,さらにここ100年の変化が大きい,という説明がまずありました。だから,自らの体験をあたりまえだと思う「脳」が求める快と,身体にとっての快適が必ずしも一致せず,心身に余分な緊張状態を引き起こしている可能性を考えるわけです。
光の生体への影響にもいろいろなレベルが考えられますが,まずは覚醒状態との関係。作業成績と覚醒水準の関係は逆U字型になることが知られており,覚醒水準が高すぎても作業能率は低下してしまいます。つまり余分な覚醒水準というものがあり得る。これを自律神経系の緊張度の変化から見れば,副交感神経系と交感神経系の作用が交差する点を考え,評価することができます。他に,生体リズムの位相と振幅から見た評価なども考えられます。色温度7500Kと3000Kを比べると,覚醒水準は7500Kの方が高くなるのに対し,反応時間は同じあるいは7500Kの方が遅くなります。ということは7500Kでの覚醒水準は高すぎる側にあると考えてよいのでは。覚醒水準が高すぎると姿勢が悪く(前屈みに)なるという傾向が考えられ,軽い作業では,7500Kでこの傾向が顕著に見られます。
極端な温度条件(寒い・暑い)の場合の体温変化への色温度の影響が調べられています。皮膚温と直腸温の比較から3000Kでは放熱が抑制される傾向があるようです。これがよいことかどうかはまだ確認できませんが。
睡眠前の色温度条件がメラトニン分泌に与える影響も調べられています。また,睡眠中の体温の変化も生体リズムとしてとらえることができます。
現在進行中のものは,最近ホットな話題であるphotosensitive Ganglion cellsに関するもの。瞳孔径の光による縮小は個人差が大きいのですが,メラトニン抑制にも個人差があります。そこで,これらに関係があるかどうかを検証しようというわけです。もちろん瞳孔径が小さい方が物理的に網膜に入る光は少なくなりますが,それだけではない効果があるのではないか,という感触が得られているようです。
実態調査も行われていますが,高齢者では,色温度間でメラトニン分泌,主観評価ともほとんど差はないそうです。他の影響要因が大きいのでしょうか。
講演のあと,環境適応実験施設を一通り見学しました。さらに大井研究室も見学。調色照明器具を用いた模型実験装置と,透過型スクリーンによる映像評価システムを見ていただきました。そういえば安河内先生に見ていただくのも初めてでした。
休憩の後,今度は大井が話題提供を行いました。「日本の建築における光環境に関する規定の現状と生体影響研究への期待」と題して,以下のような内容をしゃべりました。
建築基準法の採光規定
住宅の性能表示制度
建築学会アカデミック・スタンダード
生体影響研究への期待
建築基準法の採光規定
建築基準法とは
建築基準法の対象
ほとんどの建築物
最低基準 →基準法どおりに作ると,良い建物はできません
建物を新築する時の規定 →建物の使用時についての基準ではない。「もの」の規定
歴史と現状
第二次大戦直後に成立。
小変更を重ねて,かなり無理が生じている
建築基準法の問題点
成立時の時間的制約
戦前のものや海外を参照したのみ?
住宅で想定されたと考えられるのは,2階建てが立ち並ぶようなもののみ? →4~5階建てで日照問題発生 住居系地域では日影規制追加
地価高騰や経済情勢からの圧力
最低基準であることの問題
チェック用の規準のはずが,設計目標に
最低基準を決めれば,良いものが増える?
採光に関する規定
法規で定められた窓
居室に採光に有効な窓・開口を設けること
住宅 床面積の1/7以上
幼稚園,小,中,高等学校の教室 1/5以上
病院病室や寄宿舎の寝室 1/7以上 など
法規上の採光に有効な窓面積
隣地境界線までの距離dが住居系地域で7m以上,工業系地域では5m以上,商業系地域では4m以上であればすべて有効
dが上記以下の場合 開口部面積×補正係数
採光規定は不要か?
建築基準法の性能規定化という流れ
仕様規定から性能規定へ
有効開口率を定めるのは仕様規定?
規制緩和により,採光規定がもっとも厳しい?
単体規定と呼ばれるもので,すべての居室が対象 →補正係数で妥協することで生き残り
社会問題化あるいは明確に必要な根拠がない限り規定の維持も難しい?最低基準なので,それを下回る場合のデータはない
住宅の性能表示制度
住宅性能表示制度とは
住宅の品質確保の促進等に関する法律
住宅の品質確保の促進,住宅購入者の利益の保護,住宅に係わる紛争の迅速かつ適正な解決を図る
供給者と購入者の情報ギャップを懸念
光・視環境に関すること
単純開口率 居室の外壁又は屋根に設けられた開口部の面積の床面積に対する割合(戸建・共同)
方位別開口比 居室の外壁又は屋根に設けられた開口部の面積の各方位毎の比率(戸建・共同)
たとえば日照は,当該住宅のみで規定できないから範囲外
建築学会アカデミック・スタンダード
アカデミック・スタンダード
誘導水準を示したい
一般の人,ユーザーにも少しわかるように
建築学会 光環境運営委員会・光環境性能基準小委員会(主査:平手小太郎先生)
現在,項目を検討中
生体影響研究への期待
期待
現在の枠組みに対して
最低基準のための根拠を示せないか?
たとえば病気や体調不良者の環境から
誘導水準のためのデータ
たとえば生体リズムその他への影響
データとして目に見える形で
来年度も照明学会の光環境専門部会の下に生体影響に関する調査研究委員会が設置されるようですので,期待したいと思います。
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