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音響設計家:豊田泰久氏特別講演

2005年11月10日(木)19:00~21:00
九州大学 大橋キャンパス3号館322教室

おすすめイベントに書くのを忘れてしまったのですが,音響設計家:豊田泰久氏の特別講演会が大橋キャンパスで行われました。この講演会は,芦川先生が企画されている,九州大学芸術工学部公開講座「劇場への旅-音楽のデザイン」第3回にあたりますが,今回に限り聴講自由として学生などにもアナウンスされていたものです。題して「劇場・ホールの音響特性:設計者の目から」

講師の豊田泰久氏は九州芸術工科大学 音響設計学科の5期生で,卒業後は日本でもっとも有名な音響設計事務所である永田音響設計で数々のコンサート・ホール設計に関わって来られた方です。

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FinePix F700 SuperEBC Fujinon 7.7mm(35mm equiv.)
ISO400 FL4200K

まず,音響設計に関わられた数々のコンサートホールの中から,代表的なものの紹介がありました。最近の中で,もっとも著名なものはウォルト・ディズニー・コンサートホール。ディズニー未亡人の寄付により建てられたもので,1989年に設計が始まり,やっと2003年にオープンしたものです。このホールの設計をきっかけに,LAに住むことになり,5年目だそうです。日本では仕事が減ったから・・・などとおっしゃっていますが。

永田音響設計に入られてから現在までは,日本に音楽ホールが数多く作られた時期と一致しています。担当されたものだけで約50,永田事務所全体では300近く。また,来週ハンブルクからホール関係者が日本に視察に来るとのことで,たしかに以前では考えられないことです。

続いて歴史的な3大ホールの紹介。ウィーンのムジークフェラインザール(楽友協会大ホール),ボストン・シンフォニー・ホール,そしてアムステルダム・コンセルトヘボウ。

ムジークフェラインザールは,毎年正月のNHKで中継されるニューイヤーコンサートの会場としておなじみです。ただの箱であることが特徴(写真と平面図による説明)。音がいいのでも有名。オープンは1870年頃で1700席。

ボストン・シンフォニー・ホールは1900年のもので2600席とやや大きい。ただし,イスは現在の標準からすれば小さく,クッションも薄いので,今のイスだと2000席くらいしか入らない大きさ。これも単純な箱。

アムステルダム・コンセルトヘボウは1890年のもの。2200席くらい。角が丸いがこれも単純な箱。このような形のホールはシュー・ボックス型(靴箱)と呼ばれます。

さて,この3つは音が良いというが,では音の良さとはどういうことか。まずインパルス・レスポンスが示されました。するどい音(手をたたく等)の大きさが減衰していく様子を縦軸に音量レベル,横軸に時間をとって表した図です。するどい音としては指をはじいて見せます。最初に直接音が聞こえ,次に初期反射音(数十ms~100ms),そして残響音と解説されます。それから残響時間。音量が減衰していくカーブの傾き,という説明。設計に時に計算・検討し,重要ではあるが,音の響きを説明するにはなかなかやっかいな数字。

レスポンス波形は細かく見ればとびとびになっていますが,これは耳には分かれて聞こえない。つまり直接音と反射音を一緒にきいていることになります。これがホールで聞くと音がふくよかに聞こえたり,クリアに聞こえるかどうかなどに関わっています。直接音のすぐあとに一緒に聞いてしまう音である初期反射音がどういう反射音であるかが重要で,設計時にはこれをコントロールするのです。どういう反射音がどちらからくるのか,高音なのか低音なのか(周波数特性),あらゆる可能性が検討されます。

では,反射音は何によって決まるのでしょう。たとえば天井が高ければ距離が長くなるので反射音が来るのは遅くなります。壁との距離が違えば,また変わってきます。つまり場所によって変わります。このように同じ部屋の中でも場所によって異なる反射音のストラクチュアが大切なのです。残響時間の方は,ひとつの部屋にひとつの数値しかないので,これだけでは表せないが数字は一人歩きをします。サントリー・ホールを設計していた時,どのように説明しようか困っていたら,サントリーの人が「それはウィスキーのアルコール度数みたいなものですね」と言ったとか。なるほど,その通りで,ウィスキーのアルコール度数が10度では困りますが,アルコール度数があるからおいしいウィスキーとは言えません。おいしさはそう簡単には説明できないのであって,必要な数字ではあるけれどそれだけではないということです。

このようにとても重要な初期反射音がきれいに聞こえるためには,部屋の形が重要。たとえば吸音のためのカーテンの位置は,どこであっても残響時間には影響しないが,反射音の構造には大きく影響します。

ここで,コンサートホールと多目的ホールの違いについて。多目的ホールと呼んでいるのはマイク・アンプを使って拡声を行うホールです。マイクを使う場合には音が小さければヴォリュームを上げればよいし,後ろの席で小さければスピーカーを置けばよい,というようにクリアに聞くためには響きはむしろじゃまになることの方が多いので,生の音と響きのみを考えるコンサートホールとは大きく異なるのです。

多目的ホールはどこも同じような構成になっています(事務所にあった写真を借りてきたのですが,どこのホールかわからない,とのこと)。図面も,名前が書いてなければどこのものかわからないくらいどれも似ている。さて,客席からステージを見たときに,多目的ホールの特徴は,ステージのまわりに額縁が見えて外側に壁があることです。コンサートホールと違ってさまざまな用途に使うために舞台の上には舞台吊物(美術バトンや照明,音響反射板など),舞台袖にも幕や反射板などいろいろな装置が必要になります。客席側にも照明投光室が必要。伝統的なシューボックス型のコンサートホール(天井は高いが幅は狭い)では客席を増やすとステージまでの距離が遠くなりすぎます。またステージは大きすぎると舞台装置が大がかりになりすぎますが,客席を増やすにはステージまでの距離を考えれば幅を広げる必要があり,ステージ周りに壁が出てくるのです。なお,多目的ホールから音響反射板をなくせば演劇ホールとなります。

多目的ホールとコンサートホールの音響的な違いはなんでしょう。空間の形はどのように影響するでしょうか。初期反射音として壁や天井で1回だけ反射した音がどうなるかを見るために音線図を見ます(光のように正反射すると考える)。そうすると,シューボックス型では平らな壁面・天井面で一様にきれいに反射音が分布するのに対し,多目的ホールの形では,中央に一回反射した音の来ないところができることがわかります。このあたりはチケットの一番高いところですね。マイクを使う場合にはスピーカーの位置を考えても一番良い席になりますが,クラシック・コンサートでは悪い席になってしまいます。

一方,シューボックス型はなぜ幅が狭いのでしょう。幅が広いと壁から来る初期反射音は遅くなってしまいます。それでは天井を低くしたら?空間の容積が小さくなると残響時間が短くなってしまいます。どちらかといえば,幅を狭くして天井が高い方が設計が楽なのです。もっともウィーンのムジークフェラインができたころは,そんなに幅の広いものは作れなかったので,たまたまいいものができたのかもしれません。いいものができれば,当然長く残ってくるわけです。

ここで,前半終了。休憩。

その2に,つづく

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